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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)4号 判決

控訴人(原告) 小倉トヨ 外一七名

被控訴人(被告) 鎌倉市長

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人ら訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人らに対し、昭和四五年七月一〇日付、昭和四六年七月一〇日付、昭和四七年七月一〇日付及び昭和四八年七月一〇日付をもつてした別表(一)及び(二)記載の下水道事業受益者負担金賦課処分を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の主張は、次のように附加、補正するほか、原判決事実摘示(引用の物件目録、別表を含む。)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一六丁表五行目の「ミニアム」を、「ミニマム」と改める。

2  同二二丁裏末行の「である。」の次に、「また、下水道は都市における最も基礎的な公共施設の一つであつて、特別な施設ではないから、本件下水道施設により控訴人らが受ける利益も都市生活者にとつての一般的な利益であつて、この利益を、元来下水道を基礎的施設とするには至らない地方の住民の場合に対比して、右の「特別利益」を得たということはできない。さらに、」を加える。

3  原判決二六丁裏九行目の次に、行を替えて、次のように加える。

「(四) 以上のように、被告は、当時、本件下水道施設に係る右「特別の著しい利益」の有無について十分配慮せず、単に財源あさりの観点から、本件負担金問題を鎌倉市議会に提出したもので、そのため、市民間に公平感の醸成とは異なる状況が生じた。」

4  原判決四五丁裏二行目の「国民の状態との比較の問題」の次に、「(後記のように、鎌倉市民以外の国民もまた租税負担等を通じて本件鎌倉市の下水道施設事業に寄与している。)」を加える。

5  同五〇丁裏九行目の次に、行を替えて、次のように加える。

「(三) 以上のように、鎌倉市が本件下水道施設に係る事業につき受益者負担金制度を採用したのは、単なる財源あさりのためではない。」

6  同五七丁裏八行目の「争う。」の次に、続けて、「なお、地価形成についてのある因子の寄与の程度を測るに当つての重回帰分析の手法は、不動産鑑定学における試験的な考え方の一つにすぎず、通説的な手法ではないから、本件下水道布設事業の地価寄与の算定に用いることは許されない。」を加える。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所もまた控訴人らの本訴受益者負担金賦課処分取消請求を失当であると判断するものであつて、その理由は、次のように附加、補正するほか、原判決理由(引用の別表を含む。)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五二丁表九行目の「ない。」の次に、「したがつてまた、都市計画税を課しながら下水道受益者負担金を課しても二重課税ともいえない。」を加え、同五八丁裏二行目の「以下の事実が認められ、」の次に、「当審における証拠を加えても」を加え、同六一丁裏二行目の「請求原因1項(三)」を「前記当事者の主張三1項(三)」と改める。

2  同六四丁裏五行目の「増加をもたらす。」の次に、続けて、「他方、右布設の時点においてこれを懈怠するときには、都市化の一そうの進行と屎尿の農村還元等の困難性の増大とに伴つて、その区域内の土地について従前程度の生活の環境の維持すらできなくなる恐れが大きいということができる。」を加える。

3  原判決六五丁表二行目の「になる。」の次に、続けて「なお、この経済的利益は、右下水道布設区域内の所有者等同士の間でも、所有地等の面積の大小により較差があるということができる。」を加え、同七行目の「明確な」を削る。

4  同六五丁裏九行目の「合理性を有する。」の次に、「(この点についても、覆えすに足りる資料はない。)」を加え、同九行目の「寄与があると認められる。」の次に、続けて「この結果は、前述の下水道布設が布設区域の土地の資産価値の増加をももたらすとの通常の認識にも沿うものである。」を加える。

5  原判決六九丁表一〇行目から同裏一行目の「(旧)都市計画法」までを、「現行下水道法は昭和三三年に公布制定され、公共下水道の運営一般は同法の規定により行われているが、その施設の布設事業は(旧)都市計画法による都市計画事業として実施されてきており、当時すでにいくつかの地方都市においてその実施につき同法」と改める。

6  同六九丁四行目の「都市計画法」を「(旧)都市計画法」と、同末行及び同七〇丁表一行目の「下水道法に受益者負担金制度が導入されなかつたものと考えられる。」を「下水道法には、公共下水道の施設を損傷した者等の特定の行為をした者等に対して当該施設に関する工事に要する費用等の全部又は一部を負担させることができる旨の二、三の規定が置かれたものの、施設一般の布設事業について受益者負担金を課することができる旨の規定は置かれなかつた。しかし、引続き、いくつかの地方都市において、公共下水道の布設事業について、右の(旧)都市計画法等の法令に基づき受益者負担金が徴収されてきた。」とそれぞれ改め、さらに、同二行目から四行目までを次のように改める。

「さらに現行都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号、以下都市計画法とのみいう。)の制定に伴い、右の(旧)都市計画法及びこれに基づく命令は廃止されたが、両法律の規定を対比してみると、都市計画事業に関する旧法の施策の骨子は都市計画法にも継承されたほか、下水道施設が同法による都市計画の対象とされることも明記され(同法一一条一項三号)、前記旧法の六条二項に代つて都市計画事業によつて著しく利益を受ける者に対し受益者負担金を負担させることができる旨及びその要件等について定めた規定(七五条)も置かれ、また、都市計画法施行法等の法令により所要の経過措置も設けられた。かくして、今日では、公共下水道の布設事業は都市計画法による都市計画事業として行われており、鎌倉市における本件公共下水道布設事業もその例外ではない。」

7  原判決七一丁裏七行目の「負担金を賦課することによつて」次に、「下水道の布設地域以外に居住する市民にも」を加える。

8  同七二丁裏一〇行目の「地方公共団体に課せられた」の次に、「都市化地域住民に対する」を加える。

9  同七三丁表九行目の次に、行を替えて、次のように加える。

「なお、国民ないし住民に対するある利益の供与が法制上国ないし地方公共団体の義務であると解される場合であつても、当該の利益を享受する者が現実には国民ないし住民の一部に限られている場合において、法律の定めによりその受益者に対して手数料、負担金、使用料等として一定の金額を徴収することは、許されないことではないと解されるので、この意味においても控訴人らの右主張は理由がない。」

10  原判決七四丁表八行目の「規定」を「一般的な規定」と、同九行目の「公共下水道事業」から一一行目までを「これをもつて、ひとり公共下水道施設に関しては都市計画法七五条の規定(受益者負担金)の適用を排除する論拠とすることはできない。」と、それぞれ改め、同裏四行目の「点はない。」の次に、続けて「右判断は、成立に争いのない甲第七号証から第一二号証まで及び当審における証人和田八束、同三木義一の各供述によつても、変らない。」を加える。

11  原判決七五丁表一〇行目の「除かれるとしても」の次に、「、当該区域の所有地又はその借地権の価格の明らかな上昇が把握される場合に限られず」を加える。

12  同七六丁表八行目の「右の」を「右の鎌倉市の他の住民にも考えられる」と、同九行目の「特別な利益」を「右布設区域内の住民の特別の利益」と、それぞれ改める。

13  同七八丁裏四行目の「単年度だけ」を、「下水道が布設されたサンプル土地についての地価公示価格表の項目に下水道が記載された年度とその前年度との間の比較だけ」と改める。

14  同八一丁表末行、同裏一行目の「後述するように、そもそも負担金は租税と性質を異にするのみならず」を、「およそ地価の上昇利益なるものが一般の租税法規により租税として吸収されてしまうものではないのみならず」と改める。

15  原判決八四丁裏四行目から八五丁表八行目までを削り、同九行目の「なお」を「しかし」と、同一〇行目の「法律の根拠に基づくことなしに国家は租税を」を「法律又は法律の定める条件によることなしに国又は地方公共団体が租税その他の強制的な課徴金を」と、同末行の「国民は租税を」を「国民又は住民は右課徴金を」と、それぞれ改める。

16  同八五丁裏一、二行目の「国民」を「住民」と、同二行目の「都市計画法の規定」を「前記都市計画法七五条の規定及びこれを根拠としてその定める要件内で制定された鎌倉市の本件条例(本件条例の適法性については後記4)の規定」と、同三行目の「法形式上租税法規」を「狭義の租税法規」と、同四行目の「法律上の根拠」を「右の法律又は法律の定める条件によるとの根拠」と、それぞれ改める。

17  原判決八六丁表三、四行目の「租税と異なるものであることは前説示のとおりであるところ」を、「狭義の租税とは異なるばかりでなく(その理由は、原判決八四丁裏四行目から八五丁表八行目までのとおりである。)、仮にこれを広義の租税の一種であるというとしても」と、同裏四行目の「特別の利益」を「同様各種の租税を負担している他の住民に比して著しい利益」と、それぞれ改める。

18  同九〇丁表二行目の「しかしながら」の次に、「、都市計画法による都市計画(なお、(旧)都市計画法による都市計画も都市計画法によるものとみなされる。都市計画法施行法三条一項)に関して」を加える。

二  そうすると、控訴人らの各請求はいずれもこれを棄却すべく、これと同趣旨に出た原判決は正当であつて、本件各控訴は理由がない。よつて、本件控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田尾桃二 内田恒久 藤浦照生)

別表(一)、(二)〈省略〉

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